井刈純子(いかりじゅんこ)
定期講習講師(事故例、法令)
電気管理技術者(個人事業主)
中部電気管理技術者協会会員
お客様から一本の電話。
山中にある太陽光発電所の設備が、停止したという連絡でした。
調べると電力会社の配電線で故障。太陽光発電所の付近一帯に、広範囲の停電が発生してました。
発電所の停止は、配電線の停電による系統離脱と判明しました。
現場まで行き、確認し復旧をする必要があります。
天気予報を調べてみました。
太陽光発電所の付近は、数日天候不良が続くようです。
場所は雪が多い県内でも、豪雪地帯で有名な地域。
本来なら、すぐに復旧に向かうべきです。
しかし、安全を優先。
現場に向かうのは、天候が良好な週末にして貰えるかお客様に相談しました。
幸いなことに、配慮していただき数日の猶予を貰いました。
この間に、準備を勧めます。
現場の積雪は、1メートルを超えています。
登山用品の専門店で、雪山でも歩けるスノーシューを購入。
天気予報を確認し、晴天の日に出発。
山中の発電所への道路は、積雪のため車両通行止めになっています。途中からは、車を置いて徒歩で現場まで行くことにしました。
気温はマイナス12℃ですが、お日様が出ているので景色が良いです。
スノーシューで雪の上を歩くのは、初めての経験。気持ちはスノートレッキングです。鹿や狐であろう足跡を見つけ、こっそり記念写真も撮影。
2時間後、ようやく現場に到着。
幸いなことに、復旧はすぐにできました。
来た道を帰ります。
足取りは軽く、行きより短時間で車まで着きました。
道具を車に積んでいると、散歩中の地元の方に声をかけられました。
「何をやってるんだ?」
太陽光発電設備の保守で、山に入り帰って来たところだと説明。
「それは大変だったね。でも熊に会わなくて良かったな」
えっ、聞き違い?
「この山、くっ熊が出るんですか?」
「この辺は多いよ。そこら中に看板があっただろう。ほらそこにも」
地元の方が指し示す先には、まさしく熊注意の看板。
運転中は設備復旧の事で頭がいっぱいで、看板に全く気が付きませんでした。
「大丈夫だよ。いま時期は冬眠中だから。じゃあ、気を付けて帰りなよ」
有難い言葉を胸に、震えながら帰途につきました。